【考察】なぜ円安は止まらないのか?―「物価」と「実質金利」から紐解く日本円の現在地―
- 根本 寛朗

- 2025年12月30日
- 読了時間: 4分
「物価が上がると通貨は安くなる」この考え方は直感的には正しいものの、為替の世界では必ずしも十分ではありません。為替レートを決めるのは、単なる物価上昇の有無ではなく、「金利」と「将来の購買力」に対する評価です。
金利とは、言い換えれば将来のお金の購買力をどの程度守れるかを示す指標です。仮に金利2%・物価上昇率2%であれば、名目上のお金は増えても、実質的な価値は変わりません。物価を上回る金利、すなわち実質金利がプラスであって初めて、通貨の価値は維持されるのです。
この点を踏まえると、「物価(インフレ)」と「通貨価値」には、次の2つの意味があることが分かります。
■ ① 国内的な通貨価値(購買力)
物価が上がれば、同じ1万円で買えるモノやサービスは減ります。この意味では、インフレは通貨価値の低下であり、「国内での円の購買力が下がった」ことを意味します。
■ ② 為替における通貨価値(相対評価)
一方、為替レートは「日本円が他国の通貨と比べてどう評価されているか」で決まります。重要なのは、日本の物価が上がったかどうかではなく、他国と比べてどうかという点です。
■ 日本の現在地 ―「物価の安定」という円のブランド低下
かつて日本円は、世界的に見て「物価が上がりにくく、購買力が安定した通貨」として、リスク回避局面などで選ばれる傾向にありました。しかし近年、日本の消費者物価指数(CPI)の上昇率は、主要先進国と並ぶ水準まで上昇しています。
これはすなわち、
「日本は物価が安定している国」
「円は購買力が守られる通貨」
という、かつて存在した円の信用プレミアムが相対的に低下したことを意味します。その結果、「物価が上がらないから円を保有しておこう」という投資動機は弱まり、円安圧力の土台が形成されました。
■ 決定的なのは「実質金利」
円安を語る上で最も重要なのが、実質金利です。
現在、日本と欧米諸国の間には、この実質金利において明確な差があります。
日本:名目金利を低水準に抑えているため、実質金利は大幅なマイナス
米英など:インフレ抑制のため利上げを行い、実質金利はプラス圏
■ なぜ実質金利がマイナスだと円が売られるのか
実質金利がマイナスの通貨は、「持つだけで購買力が目減りしやすい」通貨です。
円を保有する → 期待インフレ率に金利が追いつかず、購買力が低下しやすい
外貨を保有する → 利回りによって物価上昇をカバーしやすく、購買力が維持・向上しやすい。
この結果、円は「持たれにくい通貨」となり、売られやすくなります。低金利の円を借り、高金利通貨に投資するキャリートレードが活発化するのも、必然的な動きといえます。
■ 円安は「物価」より「金利と信認」の問題
現在の円安は、単に物価が上がったからではありません。
物価は上がっているのに、金利が十分に上がらない
実質金利が低い状態が長期化している
日本経済が「低リターン市場」と見なされている
こうした構造が、円を投資対象ではなく、調達通貨へと変質させています。さらに、円安が輸入物価を押し上げ、コストプッシュ型インフレを招くという悪循環も懸念されます。
■ 結論:日本円の現在地
現在の日本円の状況を整理すると、
という側面が見えてきます。世界水準のインフレに直面する中で、金融政策の方向性や経済成長への期待感が変わらない限り、円は「投資対象」よりも「調達通貨」として扱われやすい状況が続くかもしれません。
円安の流れを読み解くには、単なる物価の動きだけでなく、「物価上昇に見合ったリターン(実質金利)が確保されているか」、そして「日本経済そのものへの信頼」という視点が、今後ますます重要になると考えられます。
〈ご案内とご注意〉 本記事は、経済指標や市場環境の解説を通じて、金融知識の理解を深めていただくことを目的とした情報提供資料であり、特定の金融商品の売買を勧誘、または将来の為替相場を保証するものではありません。 内容は信頼できると考えられる資料に基づき作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。実際の資産運用や投資判断にあたっては、ご自身の生活状況やリスク許容度、目的を踏まえ、最新の情報をご確認いただいた上で、最終的にはご自身の責任にてご判断くださいますようお願い申し上げます。


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