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世帯年収1,500万円以上なのに老後資金が不足する家庭|高収入でも安心できない理由

執筆者の写真: 根本 寛朗
根本 寛朗
8 分前
読了時間: 15分

MILK|LIFE PLAN CASE STUDY


世帯年収1,500万円以上なのに老後資金が不足する家庭|高収入でも安心できない理由

世帯年収1,500万円と聞くと、経済的に余裕のある家庭を想像する方も多いのではないでしょうか。


住宅を購入し、子どもには十分な教育を受けさせ、家族旅行も楽しむ。日々の生活に困ることはなく、将来のお金についても、それほど心配する必要はないように思えるかもしれません。


しかし、私はライフプランを考えるうえで、収入の多さだけで将来の経済的な安心を判断することはできないと考えています。


年収が高いことと、金融資産を十分に保有していることは、まったく別の話だからです。


むしろ、高収入世帯だからこそ注意しなければならない点もあります。


現役時代の収入に対して退職後の公的年金収入の割合が低くなりやすいこと。一度上げた生活水準を引き下げることが難しいこと。そして、収入が多いにもかかわらず、将来のための資産形成が十分に進んでいない場合があることです。


今回は、世帯年収1,500万円の共働き家庭をモデルに、高収入でも老後資金が不足する可能性がある理由と、今から考えておきたい対策について、具体的な数字を使って考えてみたいと思います。


※本記事のケースはライフプランの仕組みを説明するために設定した架空の家庭です。実在する相談者の事例ではありません。



1.世帯年収1,500万円でも、自由に使えるお金は1,500万円ではない


まず確認しておきたいのは、額面年収と手取り収入の違いです。


会社員の場合、給与から所得税、住民税、社会保険料などが差し引かれます。


また、同じ世帯年収1,500万円でも、夫婦それぞれが750万円を稼いでいる場合と、一方が1,200万円、もう一方が300万円を稼いでいる場合では、税金や社会保険料の負担が異なります。


そのため、世帯年収の合計額だけで実際の家計の余裕を判断することはできません。


今回は、次のような家庭を想定します。



この家庭は、決して極端な浪費をしているわけではありません。

都心への通勤を考えて住宅を購入し、子どもの教育にも力を入れ、休日には家族との時間を楽しんでいます。

では、年間の支出を確認してみましょう。


支出項目

年間金額

住宅ローン返済

300万円

固定資産税・住居維持費

50万円

食費・日用品

150万円

水道光熱費・通信費

60万円

教育費・習い事

150万円

保険料

40万円

自動車・交通費

60万円

旅行・レジャー・交際費

90万円

衣服・医療・その他

100万円

年間支出合計

1,000万円


高収入でも、将来に残るお金は少ない

年間の手取り収入は1,100万円ですが、支出が1,000万円あるため、将来のために残せるお金は年間100万円です。


月額にすると約8万3,000円。


世帯年収1,500万円という数字から受ける印象と比較すると、金融資産を増やすために確保できる金額は、それほど大きくありません。


さらに、家電の買い替えや住宅の修繕など、想定外の支出が発生すれば、貯蓄額は一層少なくなる可能性があります。


ここで重要なのは、どれだけ稼いでいるかではなく、その収入のうち、どれだけを将来のために残せているかという視点です。



2.高収入家庭ほど、支出が固定化しやすい


今回の家庭では、住宅ローンの返済が年間300万円あります。


額面年収に対する返済負担率は20%です。


一般的な住宅ローンの返済負担率という観点では、必ずしも極端に高い水準ではありません。


しかし、手取り収入に対して考えると、住宅ローン返済だけで約27.3%を占めます。


固定資産税や住居維持費を加えれば、年間350万円です。


住宅費は、食費やレジャー費などとは異なり、収入が減ったからといって簡単に減らせるものではありません。


また、子どもの教育費も一定ではありません。


現在は年間150万円だったとしても、私立中学校への進学や塾・予備校、大学進学などによって支出が増える可能性があります。


文部科学省の「令和5年度子供の学習費調査」でも、公立・私立の選択によって学習費に大きな違いがあることが確認できます。


特に注意したいのは、教育費が増える時期と、老後に向けて資産形成を進めたい時期が重なりやすいことです。


40歳の家庭であれば、子どもが大学へ進学する頃には50代を迎えます。


老後資金を準備したい時期に教育費の負担が増えれば、積立額を減らしたり、それまでに蓄えた資産を取り崩したりする可能性があります。


こうした支出の変化を考えず、現在の収入と支出だけを見ていると、将来の家計を楽観的に捉えてしまうことがあります。



3.今、新入社員の頃の給与に戻ったら生活できますか?


ここで、一つ質問をしてみたいと思います。


もし今、給与が新入社員の頃の金額に戻ったとしたら、現在と同じ生活を続けられるでしょうか。


新入社員の頃は、今よりもずっと少ない給与で生活していたはずです。


もちろん、当時とは家族構成や住居費などの条件が違いますから、単純には比較できません。


それでも、当時の給与で生活が成り立っていたことは、一つの事実ではないでしょうか。


収入が増えるにつれて、住まいが変わり、外食や旅行にかける金額が増え、さまざまな選択肢が広がっていく。


これは、決して悪いことではありません。


頑張って働いて収入が増えたのですから、生活を豊かにしたいと思うのは自然なことです。


ただし、一度上げた生活水準を、元に戻すことは簡単ではありません。


行動経済学では、現在の状態を維持しようとする傾向を「現状維持バイアス」、利益を得る喜びより損失を被る苦痛を強く感じやすい傾向を「損失回避」として説明します。


もちろん、生活水準を下げにくい理由は心理的なものだけではありません。住宅ローンや教育費など、簡単に削減できない支出もあります。


しかし、一度慣れた生活を手放すことに抵抗を感じるという点は、老後の生活設計を考えるうえでも無視できません。


現役時代は収入の増加に合わせて支出を増やしてきたのに、退職後は年金収入に合わせて生活を縮小しなければならない。


それが難しければ、差額を金融資産から補う必要があります。


だからこそ、生活水準を上げる際には、その生活を将来も維持できるかどうかまで考えておくことが重要です。



4.高収入ほど、現役時代と老後の年金収入に大きなギャップが生まれやすい


高収入世帯が老後を考える際に、もう一つ理解しておきたいのが公的年金の仕組みです。


現役時代の年収が高ければ、将来受け取る年金も同じ割合で増えていくと思われがちですが、実際にはそうではありません。


厚生年金には、保険料や年金額の計算に用いる「標準報酬月額」があり、上限が設けられています。


2026年10月現在、その上限は65万円です。


今後は2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円へと段階的に引き上げられる予定ですが、給与が増えれば無制限に年金額が増えるわけではありません。なお、賞与についても、別途標準賞与額の上限が設けられています。


加えて、老齢基礎年金は所得に比例して増える制度ではありません。


そのため、現役時代の収入が高い人ほど、退職後の年金収入が現役時代の所得に占める割合は低くなりやすい構造になっています。


例えば、世帯年収1,500万円だった家庭が、退職後に夫婦合わせて年間500万円の公的年金を受け取ると仮定しましょう。


現役時代と退職後の収入ギャップ

この場合、退職後の年間収入は現役時代の約3分の1になります。


もちろん、退職後は税金や社会保険料の負担も変わるため、手取り収入が単純に3分の1になるわけではありません。


また、年金額は夫婦それぞれの加入期間や報酬履歴、受給開始年齢などによって異なります。


それでも、高収入世帯ほど退職前後の収入差が大きくなりやすいことは、ライフプランを考えるうえで重要なポイントです。


高収入世帯の老後リスクは、年金額そのものが少ないことではなく、現役時代の生活水準に対して年金収入が不足しやすいことにあります。



5.年間100万円の貯蓄を25年間続けると、いくらになるのか


では、今回の家庭が現在の収支を維持したまま、65歳まで資産形成を続けたらどうなるでしょうか。


現在の金融資産1,000万円を起点として、毎年100万円を25年間積み立てると仮定します。


ここでは、物価上昇の影響を除いた実質運用利回りを使い、将来の金融資産を現在の購買力に換算して比較します。



実質運用利回り1%の場合、65歳時点の金融資産は約4,100万円になります。


金融資産が4,100万円あると聞けば、老後資金として十分だと感じる方もいるかもしれません。


しかし、重要なのは金融資産の金額だけではありません。


その資産で、退職後に希望する生活を何年間維持できるのかという視点が必要です。


また、この試算では25年間、毎年100万円の積立を維持できることを前提にしています。


教育費の増加や収入減少によって積立ができない年が続けば、実際の金融資産は試算より少なくなる可能性があります。


※実質金額で計算するため、年間積立100万円も現在の購買力を維持するものとして扱っています。実際の名目積立額は物価上昇に応じて調整する前提です。



6.金融資産4,100万円でも老後資金が不足する理由


では、65歳以降の生活を考えてみましょう。


今回の家庭では、夫婦の退職後の年間生活費を600万円、公的年金の手取り収入を400万円と仮定します。

項目

年間金額

公的年金の手取り収入

400万円

老後の生活費・住居維持費等

600万円

年間収支

▲200万円


※すべて現在の購買力に換算した実質金額です。年金の手取り400万円は個別の年金試算ではなく、モデル上の仮定です。65歳時点で住宅ローンを完済していることを想定し、生活費には住居維持費を含めています。


年間200万円の不足を金融資産から補う場合、65歳から95歳までの30年間で必要となる取り崩し額は、単純計算で6,000万円です。


一方、65歳時点の金融資産は約4,100万円です。



この条件では、65歳時点で約4,100万円の金融資産があっても、老後資金が不足する結果になります。


仮に退職後の運用利回りが実質0%で、毎年200万円ずつ取り崩した場合、85歳頃には金融資産がほぼなくなる計算です。


ただし、これはあくまでも一つのシナリオです。


退職金を受け取る場合や、退職後も運用を続ける場合、生活費を抑えられる場合には、結果は変わります。


また、実際の老後生活では、夫婦の年金受給状況や医療・介護費用、住居の修繕費なども考える必要があります。


大切なのは、老後資金として4,100万円あれば十分なのか、それとも不足するのかを、一律に判断しないことです。


必要な老後資金は、現在の年収ではなく、退職後の収入と支出、そして保有する金融資産によって変わります。



7.フローリッチとキャッシュリッチは違う


私は、今回のテーマを考えるうえで、「フローリッチ」と「キャッシュリッチ」を分けて考えることが重要だと思っています。


ここでは、フローリッチを収入が多い状態、キャッシュリッチを生活を支える十分な金融資産を保有している状態として考えます。


これは公的な資産分類ではありませんが、家計の状態を理解するには分かりやすい考え方です。


フローリッチとキャッシュリッチは違う

世帯年収1,500万円であっても、収入のほとんどを使ってしまえば、金融資産はなかなか増えません。


一方、世帯年収が900万円であっても、長年の積立や資産運用によって十分な金融資産を保有している家庭もあります。


どちらの家庭に経済的な余裕があるかは、年収だけでは判断できません。


ここで、もう一つ考えたいことがあります。


金融資産を保有する意味は、単にお金の残高を増やすことだけではありません。


病気や転職などによって収入が減少した場合にも、生活を維持できること。


働き方を変えたいと思ったときに、その選択肢を持てること。


そして、退職後に給与収入がなくなっても、自分たちが望む生活を続けられること。


金融資産を形成する大きな意味は、こうした選択肢を持てることにあると考えています。


なお、ここでいうキャッシュリッチは、預貯金だけを大量に保有することを意味するものではありません。


現金には流動性という強みがありますが、インフレによって購買力が低下する可能性もあります。


生活防衛資金などの必要な現金を確保したうえで、目的や期間に応じて運用資産も組み合わせ、必要なときに活用できる金融資産を形成していくことが重要です。


目指したいのは、単に高収入を得ることではなく、その収入を将来の安心や選択肢につながる資産に変えていくことです。



8.同じ年収でも、資産形成に回す金額によって将来は変わる


では、同じ世帯年収1,500万円でも、年間の積立額を変えた場合、65歳時点の金融資産はどの程度違うのでしょうか。


現在の金融資産1,000万円、積立期間25年間、実質運用利回り年1%という条件は変えず、年間積立額だけを比較します。



年間100万円の積立では約4,100万円ですが、年間200万円に増やせば約6,900万円、年間300万円であれば約9,800万円となります。


年間の積立額が100万円違うだけで、25年後の金融資産には約2,800万円の差が生まれます。


ここで注目したいのは、高い運用利回りを想定しているわけではないということです。


運用でより大きなリターンを目指す前に、家計の収支を見直し、継続して資産形成に回せる金額を増やすことにも、大きな意味があります。


もちろん、子どもの教育費や家族旅行など、今だからこそ使いたいお金もあるでしょう。


それらを一律に削減すべきだという話ではありません。


大切なのは、現在の支出を優先することで、将来の金融資産がどのように変わるのかを理解しておくことです。


将来への影響を把握したうえで、今のお金の使い方を決める。


それもライフプランの重要な役割だと考えています。



9.先取り貯蓄と資産運用で、お金にも働いてもらう


フローリッチからキャッシュリッチへ近づくためには、何をすればよいのでしょうか。


私は、まずお金を使う順番を変えることが重要だと考えています。


収入から生活費や住宅ローン、教育費を支払い、最後に残ったお金を貯蓄する。


この方法では、支出が増えるほど、将来のために残せるお金が少なくなってしまいます。


そこで考えたいのが、先取り貯蓄です。


「残ったら貯める」から「先に貯める」へ

給与を受け取ったら、一定金額を先に貯蓄や資産形成へ振り分け、残りのお金で生活する。


この仕組みをつくれば、毎月の支出に左右されにくい資産形成につながります。


金融庁も、家計管理の基本として、給与日に一定額を自動的に貯蓄用口座へ移す方法を紹介しています。


そして、もう一つ考えたいのが、お金にも働いてもらうという発想です。


例えば、毎月10万円を25年間積み立てた場合を考えてみます。


積立元本は3,000万円ですが、仮に年率4%で運用できた場合、25年後には約5,141万円になります。


もちろん、年率4%の運用成果が保証されているわけではありません。


実際の資産運用には価格変動リスクがあり、運用結果によっては元本を下回る可能性もあります。また、上記は名目金額であるため、将来の購買力は物価上昇率によって変わります。


それでも、働いて得た収入の一部を長期的な資産形成に振り向けることには意味があります。


自分自身が働いて収入を得ることに加え、保有する資産にも長期的に働いてもらう。


こうした仕組みをつくることで、給与収入だけに依存しない金融基盤を築いていくことができます。



10.老後資金だけを切り離して考えない


ここまで、収入、生活費、金融資産、老後資金という順番で考えてきました。


しかし、実際のライフプランでは、これらを別々に考えるだけでは不十分です。


収入も支出も、人生を通じて一定ではありません。


子どもの教育費が増える時期もあれば、住宅ローンの返済が終わる時期もあります。


退職金の受け取りや、公的年金の受給開始によって、家計の収支構造が大きく変わることもあります。


今回のケースでも、現在の年間支出は1,000万円ですが、そのすべてが退職後も続くわけではありません。


教育費がなくなり、住宅ローンを完済すれば、支出を減らせる可能性があります。


一方、住宅の修繕費用や医療・介護費用など、新たに必要となる支出も考えられます。


だからこそ、私はライフプランを考える際、現在の家計だけでなく、将来の収入と支出を年ごとに確認することが重要だと考えています。


何歳のときに、どれだけの収入があり、何にお金がかかるのか。


金融資産が増える時期と減る時期はいつなのか。


そして、その資産で自分たちの希望する暮らしを続けることができるのか。


こうしたことを整理することで、今の家計では気づきにくい課題が見えてきます。



11.老後の平均生活費を、そのまま自分の家庭に当てはめてはいけない


総務省の2025年の家計調査によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、月平均の可処分所得は約22.2万円、消費支出は約26.4万円となっています。


差額は月約4.2万円の不足です。


ただし、この平均値を自分の家庭の老後生活費としてそのまま使うことには注意が必要です。


家計調査の平均には、持ち家で住宅ローンを完済している家庭も、賃貸住宅に住む家庭も含まれます。


また、住んでいる地域や生活水準、世帯の状況も異なります。


今回のように現役時代の支出が年間1,000万円ある家庭が、退職後は平均的な高齢者世帯の生活費で暮らせるとは限りません。


反対に、現在の支出の大部分が教育費や住宅ローン返済であれば、退職後に支出を大きく減らせる可能性もあります。


大切なのは、平均値を知ることではなく、自分たちがどのような老後を送りたいのかを考え、そのために必要な金額を確認することです。



まとめ|高収入を、将来の安心と自由につながる資産へ


世帯年収1,500万円以上の家庭であっても、必ずしも老後の生活が安泰とは限りません。


現役時代は高い収入によって生活に余裕があっても、その収入が退職後も続くわけではありません。


特に高収入世帯では、現役時代の収入に対して公的年金の割合が低くなりやすく、退職前後の収入のギャップが大きくなる傾向があります。


さらに、一度上げた生活水準を引き下げることは簡単ではありません。


ここで考えたいのは、収入が多いことと、金融資産を十分に保有していることは違うという点です。


フローリッチであることと、キャッシュリッチであることは違います。


私は、高い収入を得ること自体が目的なのではなく、その収入をどのように使い、将来の選択肢につなげていくかが重要だと考えています。


そのためには、収入から支出を差し引いた残りを貯めるのではなく、先に将来のためのお金を確保する。


そして、必要な資金を確保したうえで、長期的な資産運用によってお金にも働いてもらうことが大切です。


もちろん、将来のために今の生活を犠牲にする必要はありません。


家族との時間や子どもの教育、旅行や趣味など、今だからこそできることにお金を使う意味もあると思います。


大切なのは、今のお金の使い方が将来の生活にどのような影響を与えるのかを理解し、自分たちの価値観に沿って選択することです。


高収入を得ることがゴールではない。その収入を、将来の安心と自由につながる資産に変えていくこと。


ライフプランを考えるうえで、大切にしたい視点です。



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