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投資で一番難しいのは「何を買うか」ではなく「何もしないこと」

執筆者の写真: 根本 寛朗
根本 寛朗
1 時間前
読了時間: 9分
投資で一番難しいのは「何を買うか」ではなく「何もしないこと」

資産運用を始めると、多くの人が「何を買うか」を一生懸命考えます。

S&P500なのか。

オルカンなのか。

日本株なのか。

債券を入れるのか。

どの投資信託がいいのか。

もちろん、何を買うかは重要です。

ただ、長く資産運用をしていると、私はそれ以上に難しいことがあると思っています。

それは、

「何もしないこと」です。

せっかく考えてポートフォリオを作ったのに、株価が大きく下がると売りたくなる。

逆に株価が上がり続けると、もっと買いたくなる。

ニュースを見れば、これから伸びそうな国や業種が次々に出てくる。

SNSを見ると、自分よりうまく運用しているように見える人もいる。

すると、

「このままで大丈夫なのか」

と不安になる。

そして、何かしたくなる。

私は、資産運用で本当に難しいのは、この「何かしたい」という気持ちとどう付き合うかだと思っています。

「何もしない」と「放置する」は違う

最初に整理しておきたいのですが、

何もしない=何も考えない

ではありません。

例えば、

株式70%債券30%

というアセットアロケーションを決め、

年1回確認する。


5%ポイント以上乖離したらリバランスする。

毎月の積立は継続する。

こうしたルールを決めていたとします。

株式市場が10%下落した。

でも、資産配分はまだ許容範囲内。

ライフプランも変わっていない。

であれば、何もしない。

反対に、株価が大きく上昇して株式比率が80%まで上がったのであれば、事前に決めたルールに従ってリバランスする。

後者は実際には売買しています。

それでも私は、これも「何もしない投資」に近いと考えています。

なぜなら、

その場の感情で判断したのではなく、事前に決めたルールを実行しているだけ

だからです。

つまり、私が言う「何もしない」とは、

相場に反応して、予定していなかったことをしない

という意味です。

人は「何かしなければ」と感じやすい

行動ファイナンスでは、こうした心理を「行動バイアス(Action Bias)」と呼ぶことがあります。

何か問題が起きると、

「何か行動した方がいい」

と感じる心理です。

例えば、

株価が20%下落した。

円高が急速に進んだ。

戦争が起きた。

中央銀行が利上げした。

こうしたニュースを見ると、

「今までと状況が変わったのだから、何かした方がいいのではないか」

と思います。

でも、投資では必ずしも、

行動すること=問題を解決すること

ではありません。

むしろ、

暴落したので売る。

急騰したので買う。

という行動によって、長期の投資計画を崩してしまうこともあります。

仕事では、問題が起きたら行動することが評価されることも多いと思います。

会社経営でも、環境が変われば戦略を変える必要があります。

しかし投資では、

「動かない」という判断そのものが、正しい意思決定になることがある。

ここが普通の仕事とは少し違うところです。

含み損を見ると、何もしないのがさらに難しくなる

例えば、1,000万円を投資していたものが800万円になったとします。

200万円の含み損です。

頭では、

「長期投資だから」

「分散しているから」

「いつか回復する可能性もあるから」

と思っていても、実際に200万円減っている画面を毎日見るのは楽ではありません。

ここで働くのが、「損失回避(Loss Aversion)」です。

人は一般的に、同じ金額であれば利益を得る喜びより、損失を被る痛みの方を強く感じる傾向があります。

100万円増えた喜びより、

100万円減った苦痛の方が大きい。

そのため、含み損が拡大すると、

「これ以上減る前に売りたい」

という気持ちが強くなります。

売れば、とりあえず不安から解放される。

でも、

不安がなくなることと、投資判断として正しいことは同じではありません。

ここは分けて考える必要があります。

毎日見るほど、長期投資が難しくなることもある

さらに、長期投資なのに価格を頻繁に確認すると、「近視眼的損失回避(Myopic Loss Aversion)」が強くなりやすいとも考えられます。

20年後のために投資しているのに、

毎日値動きを見る。

毎週損益を確認する。

すると、20年という長期よりも、

今日減った。

今週減った。

という短期的な損失が気になります。

長期ではプラスの期待リターンがある資産でも、短期では当然下落することがあります。

確認頻度が高いほど、その「負け」を目にする回数も増えます。

そして、

「もう売った方がいいのではないか」

と思いやすくなる。

私は、長期投資で毎日価格を確認する必要はあまりないと思っています。

投資期間と、確認する時間軸を揃える。

これも意外と重要です。

上がっているときも「何もしない」のは難しい

逆もあります。

自分が持っていない資産が大きく上昇している。

SNSでは、その資産で儲かったという投稿が次々に流れてくる。

友人も買った。

自分だけ持っていない。

こうなると、

「今からでも買った方がいいのではないか」

と思います。

当初、

全世界株式を中心に長期運用する

と決めていたとしても、

NASDAQが上がればNASDAQを追加する。

インド株が上がればインド株を追加する。

金が上がれば金を買う。

AI関連株が上がればAI関連を追加する。

その都度、

「今回は特別だから」

という理由がつきます。

でも数年後にポートフォリオを見ると、

当初設計したものとは全く違う資産配分になっている。

これは珍しいことではありません。

下落に耐えることだけでなく、

自分が持っていない資産の上昇を見ながら何もしないこと

も、資産運用ではかなり難しいと思っています。

「最近上がっている」は将来予測ではない

ここで働くのが、「近時性バイアス(Recency Bias)」です。

人は最近起きたことを、将来にも当てはめて考えやすい傾向があります。

最近株価が上昇していると、

「これからも上がりそう」

と感じる。

反対に暴落が続けば、

「まだ下がりそう」

と感じる。

でも、

「最近上がっている」

は事実です。

一方、

「だから今後も上がる」

は予想です。

この2つは違います。

投資で難しいのは、未来は分からないのに、今起きていることには非常に強い説得力があることです。

株価が上がっている。

チャートも右肩上がり。

良いニュースも多い。

専門家も強気。

こういう状況では、買う理由はいくらでも見つかります。

反対に暴落時には、

景気後退。

企業業績悪化。

戦争。

金融不安。

売る理由はいくらでも見つかる。

相場が上がっているときに強気材料が多く、下がっているときに弱気材料が多いのは、ある意味当然です。

だからこそ、

その時のニュースだけで長期の投資方針を変えない

というルールが必要になると思っています。

利益が出たら売りたくなり、損失が出ると売れなくなる

もう一つ、投資家によく見られるのが「ディスポジション効果(Disposition Effect)」です。

利益が出ている資産は、

「利益があるうちに確定しておこう」

と売りたくなる。

一方、損失が出ている資産は、

「ここで売ったら損が確定してしまう」

と持ち続ける。

結果として、

利益の出ている資産を早く売り、

損失の出ている資産を長く持つ

という行動につながります。

もちろん、利益確定も損切りも必要な場面はあります。

問題は、

投資理由ではなく、含み益か含み損かによって判断してしまうこと

です。

本来見るべきなのは、

今後その資産を保有する合理性があるか。

ポートフォリオ全体の中で必要か。

自分のライフプランに合っているか。

ということです。

含み益か含み損かは、その判断材料の一部にすぎません。

後悔したくないから動いてしまう

「後悔回避(Regret Aversion)」もあります。


「あのとき売っておけばよかった」

「あのとき買っておけばよかった」


この後悔を避けたい。


すると、


「今回は売っておこう」

「今回は買っておこう」


と行動したくなります。


でも投資では、どの選択をしても後悔する可能性があります。


買ったら下がるかもしれない。

買わなければ上がるかもしれない。

売ったらその後上がるかもしれない。

売らなければさらに下がるかもしれない。


未来が分からない以上、


後悔しない投資判断を作ることはできません。


だから私は、


「後悔しないために判断する」


のではなく、


「事前に決めたルールに従ったか」


を基準にした方がいいと思っています。


本当に何もしなくていいのか

もちろん、何があっても放置していいという話ではありません。

私なら、次のような場合には見直します。

ライフプランが変わった。

住宅購入が決まった。

退職時期が近づいた。

収入が大きく変わった。

必要な教育費が変わった。

自分のリスク許容度が変化した。

商品設計そのものに問題があった。

資産配分が決めた許容範囲から大きく外れた。

こうした場合です。

つまり、

市場が変わったから変えるのではなく、自分の条件や投資計画が変わったから変える。

私はこの違いが非常に重要だと思っています。

20年後に使う老後資金であれば、今日株価が5%下がったからといって目的は変わりません。

でも、3年後に住宅購入へ使うことになったのであれば、同じポートフォリオのままでよいか考える必要があります。

見るべきなのは、

「市場がどうなったか」

だけではなく、

「自分の計画がどうなったか」

です。

「何もしない」を仕組みにしておく

感情で動かないためには、精神力だけに頼らない方がいいと思っています。

例えば、

毎月の積立を自動設定する。

ポートフォリオを確認する頻度を決める。

年1回アセットアロケーションを確認する。

5%ポイント以上乖離したらリバランスする。

暴落しても生活防衛資金に問題がなければ積立を続ける。

こうしたルールを事前に決めておく。

これは行動経済学でいう「コミットメント(Commitment)」に近い考え方です。

将来、感情的になる自分を前提にして、

冷静なうちにルールを作っておく。

相場が暴落してから、

「どうしよう」

と考えるのではない。

株価が上がって盛り上がっている最中に、

「買おうか」

と考えるのでもない。

冷静な自分が、感情的になった自分の行動を先に決めておく。

私は、これは非常に合理的だと思っています。

良いポートフォリオほど、退屈かもしれない

良い資産運用というと、

高度な分析をして、

次に上がる資産を見つけ、

頻繁に売買し、

市場を上回る。

そんなイメージを持つかもしれません。

もちろん、そういう運用もあります。

ただ、多くの個人投資家にとっては、

自分の目的に合った資産配分を決める。

低コストで分散する。

積立を続ける。

必要なときだけリバランスする。

あとは待つ。

という方法も十分合理的です。

そして問題は、

この「待つ」が一番つまらないことです。

相場を毎日見ても、やることがない。

ニュースを見ても、売買しない。

周りが儲かっていても、自分の方針を変えない。

でも長期投資では、その退屈さを受け入れることが必要になることがあります。

投資で一番難しいのは、

次に上がる銘柄を当てることではないのかもしれません。

行動バイアスに流されず、損失回避に振り回されず、近時性バイアスで将来を決めつけない。

そして、自分で決めた投資方針を、

市場が上がっても、

下がっても、

周りが騒いでも、

簡単には変えない。

何もしないと決めたときに、本当に何もしない。

私は、それも資産運用の技術の一つだと思っています。

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