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定額・定率・定口取り崩し、どれが合理的か

執筆者の写真: 根本 寛朗
根本 寛朗
3 時間前
読了時間: 11分

NISAを始めた。

毎月いくら積み立てるかも決めた。

何に投資するかも決めた。

では、

「そのお金を、いつから、どうやって使いますか?」

と聞かれたらどうでしょうか。

ここまで考えている方は、まだそれほど多くないように思います。

以前、「資産寿命を延ばす取り崩し戦略」というテーマでセミナーをしたときにも、

「NISAは始めましたか?」

「毎月いくら積み立てていますか?」


そして最後に、

「では、いつ・いくら取り崩しますか?」


という質問をしました。


資産形成では、どうしても「増やすこと」に目が向きます。


しかし、老後を迎えれば、今度はその資産を使っていかなければなりません。


私は、投資は「買う」より「使う」方が難しいこともあると思っています。


資産が減っていくことへの不安。

自分が何歳まで生きるか分からない長生きリスク。

そして、資産を使っている最中にも起きる相場の変動。


積立期とは違う問題が出てきます。    

そこで今回は、

定額取り崩し定率取り崩し定口取り崩し


の3つを考えてみます。


最初に結論を言えば、


どれか一つが正解、という話ではありません。


私は、


「何を安定させたいのか」


によって合理的な方法は変わると思っています。



「何%使うか」と「どう使うか」は分けて考える


まず、ここは分けて考える必要があります。


老後資金について調べると、


「3%で取り崩す」

「4%ルール」

「5%では多い」


といった数字が出てきます。


これは、


資産に対して、どの程度のペースで使うか


という話です。


一方、

定額。

定率。

定口。


というのは、


どのように売却していくか


という話です。


例えば3,000万円から年間120万円を使うとしても、


毎年120万円を固定するのか。

その時点の残高の4%にするのか。

一定の口数を売っていくのか。


では、結果が違います。


「4%だから安全」

「定率だから合理的」


というように一つの数字だけで考えるのではなく、まずこの2つを分けて整理した方が分かりやすいと思っています。



定額取り崩しは「生活」を安定させやすい


例えば65歳で、


金融資産3,000万円。

公的年金が月22万円。

毎月の生活費が32万円。


だとします。


年金だけでは月10万円不足します。


であれば、


金融資産から毎月10万円ずつ取り崩す。

年間120万円です。


これが定額取り崩しです。


非常に分かりやすい。


毎月、


年金22万円+取り崩し10万円=32万円


と決まるので、家計を管理しやすい。


つまり、定額取り崩しが安定させるのは、


資産残高ではなく、使えるお金です。


生活費を補うという目的には、とても相性がいいと思います。


ただし、弱点もあります。



下がっているときほど、多く売ることになる


投資信託から毎月10万円を作るとします。

基準価額が高いときなら、少ない口数を売れば10万円になります。


一方、基準価額が半分になれば、

同じ10万円を作るために、おおよそ倍の口数を売る必要があります。


積立投資とは逆です。


積立時は、

価格が安いときに多く買う。

取り崩し時の定額売却では、

価格が安いときほど多く売る。


ここが定額取り崩しの難しいところです。


そして、一度売ってしまった口数は、その後相場が回復しても戻りません。



定率取り崩しは「資産への負担」を安定させる


次に定率です。


例えば、毎年資産残高の4%を使う。


3,000万円なら120万円。

翌年、資産が2,400万円になっていれば96万円。

3,500万円に増えていれば140万円。


資産が減れば、使う金額も減る。


そのため、定額と比べると、相場が悪いときに無理をして多く取り崩しにくくなります。


つまり定率取り崩しが安定させるのは、


資産残高に対する取り崩しの負担


です。


資産寿命という点では合理的です。


ただし、


生活する側から見ると別の問題があります。



株価が30%下がっても、生活費は30%下がらない


仮に3,000万円の4%なら120万円です。


ところが資産が2,100万円になれば、

4%は84万円。

年間36万円、月にすると3万円使える金額が減ります。

資産側から見れば合理的です。


しかし、

食費。

住居費。

光熱費。

医療費。

こうした支出まで、相場に合わせて下がるわけではありません。

ですから私は、

定率は「資産には優しい」が、「生活には必ずしも優しくない」

と思っています。

余裕資金なら調整できます。

でも、最低限の生活費まで相場に連動させるのは難しい。

ここを考える必要があります。

定口取り崩しは「口数」を安定させる

3つ目が定口です。

例えば投資信託を一定口数ずつ売却する。

1,200万口を30年間で使うのであれば、単純化すると毎年40万口ずつ売却する。

価格が高ければ受取額は増えます。

価格が低ければ減ります。

定額との大きな違いは、

相場が下がったからといって、売る口数を増やさないこと

です。

そのため、

「30年間でこの資産を計画的に使っていく」

といった期間の管理はしやすい。

一方で、

毎月いくら受け取れるかは分かりません。

つまり定口が安定させるのは、

受取金額ではなく、売却する数量と取り崩し期間

です。

これも、何を目的にするかによって評価が変わります。

「定額・定率・定口取り崩し、どれが合理的か」

3つは「何を固定するか」が違う

私は、3つをこう整理すると分かりやすいと思っています。

定額は、使える金額を固定する。

定率は、資産に対する割合を固定する。

定口は、売却する数量を固定する。

つまり、

定額は生活を安定させる。

定率は資産への負担を安定させる。

定口は売却数量を安定させる。

ここまで整理すると、

「どれが一番合理的ですか?」

という質問に、一つの答えがない理由が分かります。

老後では「平均何%」だけでは足りない

ここからが、取り崩しを考えるうえでもう一つ重要なところです。

それが、

収益率の順序リスク(Sequence of Returns Risk)

です。

例えば、2,000万円を運用しながら、毎年100万円ずつ使うとします。

5年間のリターンが、

-20%+10%+10%+10%+10%

だった場合。

税金・手数料を考えず、各年の運用後に100万円を取り崩す単純計算では、5年後の残高は約1,732万円 です。

では順番を逆にして、

+10%+10%+10%+10%-20%

だったらどうでしょう。

5年後は約1,871万円です。

使ったリターンは同じです。

違うのは、

下落した時期だけです。

それでも約139万円の差が出ます。

「収益率の順序で、老後資産の残り方は変わる」

以前のセミナーでも、退職直後に大きく下落するケースと、後半に同じ規模の下落が起きるケースを比較しました。

平均リターンが同じでも、取り崩し開始直後の下落は資産寿命に大きく影響します。     

資産形成期なら、

「長期の平均リターンは何%か」

を考えることに意味があります。

でも取り崩し期では、

平均だけではなく、順番も重要になる。

ここが大きな違いです。

では「4%ルール」とは何なのか

ここで、よく聞く「4%ルール」も整理しておきたいと思います。

ここは、かなり混同されやすいところです。

4%ルールは、

毎年、その時点の資産残高の4%を取り崩す

という意味ではありません。

一般的に4%ルールとして知られる考え方では、

退職時の資産に対して初年度の取り崩し額を決め、

その後は、その金額を物価上昇に合わせて調整していきます。

例えば5,000万円なら、

初年度は4%の200万円。

翌年の物価上昇率が2%なら、

200万円×1.02=204万円。

さらにその翌年も物価上昇に合わせて調整する。

という考え方です。

一方、

定率4%取り崩し

なら、

毎年その時点の資産残高に4%を掛けます。

5,000万円なら200万円。

翌年に4,000万円へ減っていれば160万円。

その後4,500万円へ増えれば180万円。

つまり、

同じ「4%」でも、何に4%を掛けるのかが違います。


「4%ルールと定率4%取り崩しは、ここが違う」

いわゆる4%ルールの考え方には、

過去の米国市場。

一定の株式・債券比率。

30年間。

インフレ調整。

など、いくつもの前提があります。

過去のセミナーでも、30年間の取り崩しや米国株式・債券を用いた検証であることを整理しました。

ですので私は、

「4%という数字」だけを切り取らない方がよいと思っています。

日本で老後生活を考えるのであれば、

公的年金。

退職金。

税金。

物価上昇。

医療・介護費。

何歳まで働くのか。

どのような資産配分で運用するのか。

そして、何歳まで生きるのか。

こうした条件も考えなければなりません。

以前のセミナーでも、

「4%は正しいか?」ではなく、「あなたの場合は何%か?」

と問いを変えました。

生活費・年金・資産・寿命によって、最適解は変わるからです。



1%違うだけでも、長期では大きく変わる


例えば、

3,000万円。

年間運用利回りを毎年3%と仮定。

税金・手数料・物価上昇は考えない。

各年の運用後に取り崩す。

という、かなり単純化したケースを考えます。

年間90万円なら、当初資産の3%。

年間120万円なら4%。

年間150万円なら5%です。

この条件では、

年間90万円を取り崩す場合、35年後も3,000万円。

年間120万円なら、35年後は約1,186万円。

年間150万円なら、31年目に資産が尽きます。

もちろん、現実の運用が毎年3%で一定になることはありません。

この計算は将来を予測するものでもありません。

ここで見ていただきたいのは、

取り崩し率が1%ポイント違うだけでも、30年以上になると結果は大きく変わる

ということです。

セミナーでも、3%・4%・5%というわずかな違いが資産寿命に大きな差を生むことを示しました。 

私なら、全部を同じ方法では取り崩さない

では実際に、

「定額と定率、どちらにすればいいですか?」

と聞かれたらどうでしょう。

私は、必ずしも一つに決めなくてもいいと思っています。

例えば、

公的年金が月22万円。

最低限必要な生活費が月27万円。

旅行や趣味まで含めた希望生活費が月32万円。

だとします。

最低限生活するためには、月5万円不足します。

この5万円は、

相場が下がったからといって使わない、

というわけにはいきません。

ここは定額的に確保した方が生活は安定します。

一方で、

さらに月5万円の、

旅行。

趣味。

外食。

家族との時間。

こうした支出は、ある程度調整できます。

相場が良い年は少し多く使う。

大きく下落した年は少し抑える。



私は、


「生活を守るためのお金」と「人生を楽しむためのお金」を分けて考える


方法もあると思っています。


「老後の取り崩しは『生活費』と『楽しむお金』を分けて考える」


例えば、


生活を守るための月5万円は、定額的に確保する。

旅行や趣味のための月5万円は、相場や資産残高に応じて調整する。


こう考えれば、


「定額か定率か」


の二者択一ではありません。


目的によって取り崩し方を変える


という設計もできます。


私は、実際のライフプランでは、こちらの方が現実に合うケースも多いと思っています。



資産を残すことだけが成功なのか


もう一つ、私が取り崩しで大切だと思っていることがあります。


65歳で5,000万円。

85歳になっても5,000万円。


これは資産運用だけ見れば、非常にうまくいっているように見えます。


でも、

本当は旅行に行きたかった。

元気なうちに家族と使いたかった。

やりたいこともあった。


それでも、

「資産が減るのが怖い」

という理由で使わなかった。

そして最後に5,000万円残った。


もちろん、

子どもに5,000万円残すことが目的なら、それが正解です。


しかし、自分の人生のために準備したお金なら、

使わなさすぎることも、私は一つのリスクだと思っています。

以前のセミナーでも、取り崩しが難しい理由の一つとして、「資産が減ることへの心理的不安」を挙げました。


資産形成期は、


どう増やすか。

取り崩し期は、

どう減らさないか。

だけではありません。

どう使うか。


ここまで考える必要があります。



「どれが正しいか」ではなく、「何を安定させたいか」


定額。

定率。

定口。


それぞれ合理性があります。


ただし、合理的である理由が違います。


毎月の生活費を安定させたいなら、定額。

資産残高に合わせて支出を変えられるなら、定率。

一定期間で計画的に口数を減らしたいなら、定口。


だから私は、


「どの取り崩し方法が正しいか?」ではなく、「何を安定させたいのか?」


から考えたいと思っています。


そして、本来考えるべき順番は、その前です。


毎月いくら必要なのか。

公的年金はいくら入るのか。

何歳まで働くのか。

退職金はいくらなのか。

住宅費はどうなるのか。

医療・介護費をどこまで考えるのか。

何歳まで資産を持たせたいのか。

最後にいくら残したいのか。

相場が下がったとき、どの支出なら減らせるのか。


セミナーでも、最適な取り崩し率は、生活費、公的年金、退職金、運用利回り、インフレ、医療・介護費などを総合して考える必要があると整理しました。


私は、老後の資産取り崩しは、


金融商品の問題というより、ライフプランの問題


だと考えています。


「いくら貯めるか」


だけではなく、


「いつから、いくら、どのように使うのか」。


ここまで設計して、初めて資産形成したお金が自分の人生につながる。


4%が正しいかではなく、


自分の場合は何%なのか。


定額・定率・定口のどれが正しいかではなく、


自分は何を安定させたいのか。


貯めることと同じくらい、


上手に使うことも考えていきたいと思っています。

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